レバノン 続く政治空白、遠い復興…経済も大混乱 ベイルート大規模爆発から1年
2021年8月2日 21時00分
レバノンの首都ベイルートの港で大規模爆発が起きてから、4日で1年を迎える。爆発後の対応を巡り当時の政府は内閣総辞職したが、新政権はいまだ発足せず、政治空白が続く。悪化していた経済は爆発後に危機的状況に陥り、現在は電力供給もままならない。爆発で少なくとも218人の命が失われたが、原因調査は進まず、市民の怒りは事態を打開できない政治家へと向かっている。(ベイルートで、蜘手美鶴、写真も)
ベイルート大規模爆発 昨年8月4日夕、ベイルート港の倉庫に保管されていた硝酸アンモニウム2754トンの一部が何らかの原因で爆発。首都が広範囲にわたり破壊され、港湾労働者や付近住民ら多数が犠牲となった。化学物質はロシアの貨物船の積み荷で、14年に港湾当局が裁判所の命令を受けて押収したが、その後放置されていた。12月に暫定首相と元閣僚3人が過失罪で起訴された。
◆命は助かっても…
現場から1キロ離れた港を見下ろす大通り。約300メートルにわたって壁に犠牲者約200人の肖像画が描かれ、道行く人を見つめている。地元の芸術家らの作品で、少しほほ笑んだ顔もあれば、静かな表情の顔も。爆発で奪われた命の肖像画だ。
「毎日みんなの顔を見ている。1年たっても街は壊れたままだ。私のけがもまだ治らない」。近くの工事現場で働くワシームさん(44)が、諦めたように笑った。1年前、工事現場周辺に腰掛け、たばこを吸いながらコーヒーを飲んでいた。突然の爆風で吹き飛ばされ、背中と足を負傷。1カ月入院し、今も足が思うように動かない。「治療費がもう払えない。どうすればいいのか」と嘆いた。
現場の周辺1キロは特に損傷が激しく、現在もビルの窓ガラスは爆風で吹き飛んだまま。骨組みだけが残るような状態で、復興とは程遠い。海沿いのマーミカエル地区にある半壊した工場で、自動車修理を続けるアントワン・スレイマンさん(70)は「がれきの片づけはボランティアがやってくれた。政府は当時も今も何もしてくれない」と憤る。
◆無政府状態 経済危機に拍車
復興が進まない大きな原因の1つは、1年近く続く政治の空白だ。爆発後の対応を巡ってディアブ内閣が総辞職したが、いまだに新政府樹立には至らない。レバノンには18の宗教・宗派が存在するが、各宗派に政治権力を配分する「宗派主義」が弊害となっているためだ。
これまで2人が首相指名されたが、閣僚ポストなどを巡り宗派間の折り合いが付かず、それぞれが組閣を断念して指名を辞退。7月下旬に、新たにミカティ元首相が新首相に指名されたが、新政府が発足するかは不透明だ。
現状の暫定政府の状態では経済施策を打ち出すこともできず、長引く政治混乱が経済危機に拍車を掛けている。通貨レバノンポンド(LBP)の対米ドル実勢レートは、経済悪化が始まった2019年秋の1ドル=1500LBP台から、現在は2万LBP前後まで暴落。物価が高騰し、市民生活を圧迫する。慢性的な燃料不足で、首都でも電力供給は1日数時間にとどまる。
◆捜査難航 市民に補償もなし
また、一向に進まない爆発原因の調査も、政治不信に拍車をかけている。爆発した硝酸アンモニウムの保管や搬入経緯を知る元閣僚3人の聞き取りに向けた手続きが難航し、捜査は行き詰まりを見せている。
誰が何の目的で危険物質を港に持ち込み、なぜ爆発したのかも解明されておらず、いまだ政府から遺族や負傷者への補償もない。資金のない市民は、壊れたままの家に暮らしている。
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